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 てんかんか、悪霊憑きか

 マタイ伝には、イエスが、“てんかん”の息子から、悪霊を追い出した話しが、記録されています。
 マタイ17:14 一同が群衆のところへ行くと、ある人がイエスに近寄り、ひざまずいて、
 マタイ17:15 言った。「主よ、息子を憐れんでください。てんかんでひどく苦しんでいます。度々火の中や水の中に倒れるのです。
 マタイ17:16 お弟子たちのところに連れて来ましたが、治すことができませんでした。」
 マタイ17:17 イエスはお答えになった。「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢しなければならないのか。その子をここに、わたしのところに連れて来なさい。」
 マタイ17:18 そして、イエスがお叱りになると、悪霊は出て行き、そのとき子供はいやされた。

 さて、この息子は、本当に、悪霊が原因で、てんかんに苦しんでいたのか、検証したいと思います。

  てんかん(癲癇:epilepsy)には、いろいろなタイプが存在しますが、筋肉を、ピクピク、律動的に収縮させたり(間代性痙攣)、体をこわばらせたり(強直性痙攣)、意識の消失が見られます。
 てんかんは、脳の局所の神経細胞から異常な電気信号(インパルス)が発射され、てんかんの発作を起こすと考えられています。

 てんかんは、人間に限らず、動物(犬や猫)などにも、見られます。
 ですから、てんかんは、霊的な現象(悪霊憑き)では有り得ません。

 このマタイ伝の日本語訳聖書では、父親が、「てんかんでひどく苦しんでいる」と言い、息子の病名を、“てんかん”と言ったと訳されています。
 しかし、父親が説明した症状は、
 新共同訳:「度々火の中や水の中に倒れるのです」
 新改訳:「何度も何度も火の中に落ちたり、水の中に落ちたりいたします」
 と記されてあります。
 ですから、この息子さんは、現代医学で言う、てんかん(epilepsy)とは、病気の症状が異なっています(外見的には、痙攣発作でなく、自傷行為です)。 

 ラテン語の聖書では、マタイ17:15の“てんかん”と言う箇所は、「lunaticus」と言う言葉が使われていります。ラテン語の「epilepsia」(英語の「epilepsy」に相当する)では、ありません。
 ラテン語で、「luna」は、「月」、「月光」と言う意味です。
 なお、当時は、“てんかん”は、「月に打たれてなる」と考えられていたそうです(このことは、チェーン式聖書にも、注釈が書かれてあります)。

 ギリシャ語聖書の英訳本では、マタイ17:15の“てんかん”と言う箇所は、「moonstruck」(頭の狂った)と言う訳語が書かれてあります。
 なお、「気が変になった」は、英語では、「lunatic」です。

 恐らく、聖書を、訳して行った人たちは、病気に関する知識が不足していて、“てんかん”と訳してしまったが、本来、聖書の記者が、「lunaticus」として伝えたかった病気は、現代医学の「てんかん(epilepsy)」とは、異なり、悪霊憑きで、気が変になる(moonstruck)病気を意味していたと、思われます。
 とにかく、聖書には、微妙な誤訳があるようです。

 神経学が進歩して、てんかんと言う病気が、他の神経疾患と鑑別されるようになったのは、恐らく、近代に入ってからのことでしょう。
 当時の人々は、「悪霊憑き」も、現代医学で言う「てんかん」も、区別していなかったのかも知れません。

 とにかく、マタイ伝の息子は、症状的に判断すれば、てんかんの痙攣発作では、ありません。
 この息子は、現代医学で言う「てんかん」ではなく、「悪霊憑き」で、自傷行為を繰り返していたので、イエスが治すことが出来たのだと、思われます。

 なお、マルコ伝では、この息子のことを、父親が、「口をきけなくする霊につかれた私の息子」(新改訳)と、説明したと記しています。
 そして、マルコ9:18は、「その霊が息子にとりつくと、所かまわず彼を押し倒します。そして、彼はあわを吹き、歯ぎしりして、からだをこわばらせます。…」と記しているので、息子は、悪霊憑きにより、ひきつけ(強直性痙攣)を起こしていたことが、伺い知れます。
 しかし、てんかんによるひきつけ(強直性痙攣)と異なり、息子は、イエスを見ると、霊により、ひきつけをおこしています(マルコ8:20)。
 また、息子の症状が、てんかんと異なるのは、「この霊は、彼を滅ぼそうとして、何度も火の中や水の中に投げ込みました」(マルコ9:22)と言う記載です。一般的には、てんかんの発作では、ひきつけると、倒れて、自分の意思では、動けないので、自分から進んで、火の中や水の中に入るような自傷的行為は、見られないです。

 それから、イエスが、息子から追い出したと言う「悪霊」とは、昔、この世に生きていた悪い人の死霊と言う意味では、ないようです。

 結局、この“てんかん”の息子の治療(悪霊祓い)を通して、イエスが言いたかったのは、「からし種一粒ほどの信仰があれば、…あなたがたにできないことは何もない」(マタイ17:20)と言うことだったと、思われます。

 引用文献
 ・日本聖書協会の新共同訳聖書
 ・國原吉之助:古典ラテン語辞典(大学書林、2005年).
 ・THE INTERLINEAR NIV PARALLEL NEW TESTAMENT IN GREEK AND ENGLISH (ZondervanPublishingHouse).
 ・NOVUM TESTAMENT LATINE (Deutsche Bibel Gesellschaft).
 

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